第8回日仏ビジネスサミット パネルディスカッション
日仏ビジネスサミットのパネルセッション「渋谷:シェイピング・トゥモローの都市 - 文化とアントレプレナーシップ、東京のグローバル・マグネティズム」では、渋谷が世界的なイノベーションハブとして成長する可能性について、日仏の専門家が議論を交わしました。
登壇者
堀江正博氏(東急株式会社 取締役社長)
渡部志保氏(シブヤスタートアップス株式会社 会長)
ピエール・ペルディギエ氏(EXOTEC NIHON株式会社 副社長 兼 APAC営業事業本部長、フレンチテック東京 副会長)※司会
渋谷の文化的DNAがイノベーションを育む
堀江氏は渋谷の独自性について、「渋谷は商業、飲食、文化、エンターテインメントの集積からスタートし、オフィスが後からできた変わった街」と説明。開放的でオープンマインドな風土があり、「ダイバーシティ(違いを力に変える街)」を掲げる渋谷区のDNAが、チャレンジしやすい土壌を作っていると強調しました。
渡部氏は渋谷を「イマジネーションのローンチパッドのような街」と表現。80年代のローラー族、90年代のゴスロリ、2000年代のストリートカルチャーなど、外部からの刺激を受けて独自のカルチャーを編集・リミックスし、新しい価値を生み出してきた歴史を紹介しました。
「海外から刺激を受けて、日本が新しいものを作ってしまう。このリミックスカルチャーこそが渋谷のDNA」と渡部氏。特に、ゴスロリが生成AIやSNSで海外に広がり、また日本に戻って「地雷系」という新しい文化になった例を挙げ、「テクノロジーとカルチャーの循環が自然にできる渋谷は、イノベーションハブとして可能性がある」と述べました。
渋谷を変革する象徴的プロジェクト
渋谷キューズ(QWS)
2019年に渋谷スクランブルスクエアで開業した会員制の共創施設。個人会員457名、法人・自治体など89団体が参加し、年齢層は高校生から90歳まで多様。様々なプロジェクトやプログラムを実施し、大企業やベンチャーキャピタルへの発表機会も提供しています。
渋谷キャスト
2017年開業の複合施設で、「働く、遊ぶ、暮らす」の三つの機能を備えたクリエイティブ活動の拠点。シェアオフィス、広場、賃貸住宅、サービスアパートメントを設置し、フリーランスやクリエイター、国内外からの短中期滞在者が集まるコミュニティを形成しています。
DIG SHIBUYA
XR、AI、Web3といったテクノロジーとアートを掛け合わせた、渋谷の街全体を舞台にしたカルチャーイベント。渋谷区が運営し、スタートアップ、行政、アーティスト、市民がコラボレーションする、オースティンのSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)のような取り組みです。
渋谷スタートアップスの挑戦
渡部氏が会長を務める渋谷スタートアップス株式会社は、渋谷区と民間企業が連携して設立したユニークな組織。シリコンバレーの成功モデルを参考に、世界中から起業家を呼び込む支援を展開しています。
支援内容:
- ビザ取得サポート
- 銀行口座開設支援
- コワーキングスペース1年間無料提供
- 法務・会計サポート
- GoToMarket支援
- 実証実験のサポート
驚くべき多様性
現在53社を支援し、その特徴は以下の通り:
- 50%が女性創業者を含む企業
- 出身地:アメリカ、ヨーロッパ各国、アジア各国、中東など
- 年齢層:20代から50代まで幅広い
取り組むテーマも、高齢化を支えるケアテック、物流、アニメ、推し活など、日本の社会課題に直結したものが中心です。
渋谷の3つの差別化ポイント
堀江氏は、ソウルやシンガポールなど他のアジア都市と比較した渋谷の優位性を3点挙げました。
1. エリアの特性
商業、住宅、娯楽が融合した多様な魅力を持つエリア。仕事終わりにそのまま食事、飲み、遊びに行ける環境が整っています。
2. マインド
渋谷区の先進的な考え方と、インバウンドに対するフレンドリーな姿勢。若者のエネルギーとナイスで寛容な気質が、チャレンジしやすい雰囲気を作っています。
3. 交通の要所
世界第2位のターミナル駅として、4社9路線が乗り入れ、1日平均280万人が乗降。外国人観光客の訪問率は東京で3年連続第1位。訪日外国人の62%が渋谷を訪れています。
ソフトパワーとボヘミアン指数
渡部氏は、渋谷の強みを「日本で一番ソフトパワーが強い街」と表現。ハードアセットだけでなく、文化の力で人々を魅了する力があると指摘しました。
また、リチャード・フロリダ教授の「ボヘミアン指数」(街に住むアーティストやクリエイターの比率)の概念を紹介。「サンフランシスコやベルリンなど、ボヘミアン指数が高かった街はイノベーションハブになった。渋谷のボヘミアン指数はかなり高い」と分析しました。
大企業とスタートアップの協力強化
堀江氏は、東急が2015年から展開する「東急アクセラレートプログラム」を紹介。スタートアップに投資するだけでなく、東急が持つ幅広い顧客接点やアセットを活用した実証実験を通じて、新規事業創出につなげる取り組みです。
渡部氏は、「大企業はインフラや基盤を供給し、スタートアップはスピードとチャレンジ精神を担当する。この2つが合わさることで、AIやロボティクスを社会実装するイノベーションが生まれる」と強調。特に、防災、モビリティ、ヘルスケア、エンタメ分野での可能性に期待を示しました。
「次のユニコーン、あるいはテクノロジーが可能にする規模の事業会社が日本の次の大企業になる。それが最初に生まれる場所が渋谷になる」と大胆な予想を述べました。
フレンチテックとの連携可能性
ピエール・ペルディギエ氏は、フランスと日本、特に渋谷との共通点として「透明性、オープン性、公益性」を挙げました。
フランスのユニコーン企業Mistral AIのオープンな姿勢を例に、「スタートアップが始まった場所の文化と価値観が反映される。日本らしさを感じる」と評価。
また、フランスが力を入れる量子コンピューティング、少子高齢化対策、農業・食料問題、持続可能なエネルギーなど、シリコンバレーの資金が完全に行き届いていない社会課題分野での協力可能性を指摘しました。
堀江氏は、「フランスは国を挙げてスタートアップやオープンイノベーションに力を入れており、世界の中で頭一つ抜けている。東京都のSusHi Tech TokyoもフランスのVivaTechをベンチマークにしているのではないか」と述べ、フレンチテック東京との連携に意欲を示しました。
2035年の渋谷のビジョン
パネルの最後、渡部氏は2035年の渋谷について「日本中、世界中のスタートアップ、特にフランスの起業家たちが渋谷に集まり、新しい価値を創造する街になっている」と展望を語りました。
文化とテクノロジーの融合、多様性の尊重、オープンなマインド。これらを武器に、渋谷は世界的なイノベーションハブへと進化を続けています。
パネルセッション概要
タイトル:渋谷:シェイピング・トゥモローの都市 - 文化とアントレプレナーシップ、東京のグローバル・マグネティズム
登壇者:
堀江正博氏(東急株式会社 取締役社長)
渡部志保氏(シブヤスタートアップス株式会社 会長)
ピエール・ペルディギエ氏(EXOTEC NIHON株式会社 副社長 兼 APAC営業事業本部長、フレンチテック東京 副会長)※司会