バカロレア、スタート

フランスでは高校卒業資格、つまり大学入学資格であるバカロレアが始まった。日本にはない制度でアンテンヌフランスでは以前にも何回か記事にしたことがあったし、バカロレアの哲学の問題をミニコーナーで掲載したことがあったので、古くからの読者はよくご存知だろう。
バカロレアは国家資格のような物で、合格率は70~80%でこれを取得できなければ「スーパーのレジ打ち以上の仕事を取れない」とまで言われているそうで、受験者は結構神経質になる。先ほど大統領に就任したサルコジ氏も哲学の試験では20点満点中9点しか取れず追試を受けたそうだ。
フランスの超エリート層であるグランゼコール(大学校)を除いてバカロレアを取得すれば、基本的にどこの大学でも入学出来る。また、バカロレアには、一般、専門、実業の3種類があり、一般の中でも理系(S)、文系(L)、経済・社会系(ES)と別れている。ただし理系でも哲学の試験があり、むしろ理系でも必修教科は文系の教科の方が多く、受験科目も多岐にわたる。
一番受験者が多いのは理系で、その理由は理系のバカロレアを取得できればどの職業にも就くことが出来るし、フランスでは理系が有利であるため、多くの親は子供のころから理系を薦める。とはいえ、どのコースを受験するかは学校や教師によって決定されるために、個人の意思は通りにくいようだ。
試験もマークテストのような物ではなく、基本は記述で口頭での試験もある。数学のような解答に一意性のある教科でも採点官によって点数が変わることがあり、試験管の差別や偏見でかなり採点が異なる事もあるという。
その中でも良く話題に上るのが哲学の試験で、テレビのニュースでもやはり哲学が採り上げられた。もちろん模範解答はあるが「正解」というのもが無い。内容がどうであれ理論が通っていれば良いらしい。
F2によると今年の理系の哲学の問題では、ユングの文章解説や欲望や労働をテーマにした論文で、その中で一番選択された問題は「欲望は現実によって満足させられるか?(Le desir peut-il se satisfaire de la realite?)」この模範解答は「人間というのは根本的に欲望をする存在であり、現実には決して満足しないのが人間である」と答えれば良いそうだ。
文系ではより高度で、アリストテレスの文章、芸術を主題とする文章の論文の他、「認識は全ての意識の解放に繋がるのか?(Toute prise de conscience est-elle liberatrice?)」という設問が出された。(3問から1問選択して解答)
フランスでは、バカロレアを通して、記述力と考える力をつける教育らしい。フランス人が理屈ぽいのはこの教育の賜物といえる。